ちょス飯の読書日記
『来なかった世の終わり』 ★★★☆☆ 島原の乱と天草四郎 永井 明著 (日本史の目 18) さ・え・ら書房 昭和48年刊(1973)
著者ご本人から贈られたもの。
46年ぶりに読み返してみた。
表題は天草四郎だが、主人公は架空の人物山田 権之助。彼は、島原の乱の折に幕府側に内通してただひとり生き残った画家、山田右衛門作(やまだえもさく)の息子で、四郎と同じ16歳の設定だ。
寛永14(1637)年、二人は肥後国、天草大矢野島の海の見える丘で出会う。作者は、子供向きに、島原の乱の時代背景や一揆軍の様子を、「今でいうとこういうことだ」と例えながら、わかりやすく描いている。
負けるのはわかっている。死んで、パライソ(天国)へ行けるからと、老若男女皆が戦い、生き延びたものも、「転ばす」首をはねられ全滅させられてしまった、本当に凄まじい史実。
ただ、全員がキリスト教徒だったわけではなく、逃げ出すものはいたという。
山田右衛門作はその後も、たんたんと絵を描き続けたというが、「芸術家」とはそういうものかもしれないとある。彼は日和見で、世がキリスト教ブームなら洗礼を受け、禁止されれば転び、報奨がもらえるならば、自分を信じて仲間に入れてくれた人々を裏切る。本当に、ただ絵をかければ良いと考えていたのだろうか。彼について、調べてみたいと思った。
四郎には、不思議な力があったとされているが、中国拳法を習っていたというのは知らなかった。
同じテーマで、多くの著作があるが、石牟礼道子『春の城』では、官軍側の大将で後の天草代官となった松平伊豆守鈴木重成について、その善行を描いているが、惜しいかな永井氏の時代にはまだ彼のことが研究されていなかったのか、省略されている。
史実を追うだけではなく、読者のように、普通の16歳の少年が狂言回しとして、この場にいたらどうするか。彼がどう成長して変わっていくのかが、描かれている。