ちょス飯の読書日記

『バンパイヤ』  手塚治虫  ★★★★☆

手塚先生本人が、狂言回しに出てくる。怖くて面白い。虫プロダクションが全盛期だった頃、水谷豊主演でテレビドラマ化もされている。CGのない時代に、実写とアニメを組み合わせた、確か世界初の映像だった。(水谷豊の演技はこどもの頃から、迫真であった。彼は、爺さんになった今でも天才だ。)

今の漫画と比べると非常にテンポが早く、第一部は上下2巻で終わっている。やや端折り過ぎの展開に感じた。

リアルタイムでも読んでいたが、還暦過ぎて読み返してみても面白い。

ヒトが狼に変身する。狼になっているときは、理性がない。ヒトを噛み殺しても平気だ。ロックは、トッペイというオオカミ少年を利用して悪の限りを尽くす。

カンボジアでは、1975年から79年のポル・ポトが、字が読める、時計が読めるという頭の良い国民が200万人も、大殺戮して自分の意のままの王国を作ろうとしたが、手塚先生はそ、既に、その10年前にこども相手の漫画の中でそれをやろうとした。

非常に恐ろしいことだ。これは、嘘の話なのだとこどもながら判断していたが、やはり怖かった。バンパイヤ革命は、数日で終わったが・・・。もっと、この世界がロックによってどう書き換えられるか、見てみたい気持ちもあった。

また、ロックが孤児で友達も一人もいない教室に、頭は悪いが心ばえが清らかで、ガタイがよく合気道の銘酒の西郷という友人がいたことは、救いだった。ロックにも、愛してくれるヒトはいたのだ。だが、・・・。

 

手塚先生は「悪」についても描いていた。読者は、悪役ロックに感情移入してしまうだろう。半世紀以上前の漫画が今日の世界にも十分通用する、普遍的な作品だ。

人殺しをしても、良心の呵責を感じないロック。しかし、やはり殺した者たちの亡霊を見ることもある。

第二部では、バンパイヤがヒトから獣に変身するのに対して、動物が人間に変身するウェコが登場する。ロックがまたヒト以外のものを使って邪魔者を消して、金と権力を手に入れようとするが、・・・惜しくもこれは、未完のまま。誰か、バンパイヤの続きを描いてほしい。

 

テレビドラマでは、手塚治虫そっくりのヒトが手塚役で出ていたが、ウイキで調べてびっくり。本人がその役をしていたのだという。ははは

コマごとに、ギャグがちょこちょこ入れられていて、これも面白かった。手塚先生はこれを執筆している当時、一番脂が乗っていて、楽しかった時期なのだろう。

石ノ森章太郎先生の『サイボーグ009』神との戦いも確か、未完だったが誰かが継いで描いたそうだ。こちらは、まだ読んでいない。