癌とも

chosu-manmaの所属するサークルに、15年上の癌とともに生活する人がいる。

彼女は既に三人の子育てを終え、自宅マンションのローンも完済。悠々自適の年金生活者だ。

しかし、彼女の人生は苛烈なものだった。末の子がまだ保育園に行っていた頃、夫が人妻と浮気。彼女とこども達は捨てられてしまう。

夫は離婚してから、養育費も送って来なかったそうだ。(新しい嫁には、こどもが二人いた。)

だから、一人で働きながら三人の子を育てたという。孫も四人いる。

だからといって、彼女は決して、親孝行は望まない。こども達の世話にならぬようにと、慎ましく年金生活をしている。

一人ぼっちで寂しくないか、病との闘いの日々では、さぞ辛いことだろうとchosu-manmaは思っていた。

しかし、しかし。

あにはからんや

彼女は、広いマンションの日当たりの良い部屋で、悠々と楽しく暮らしているのだった。

 

昨日はお教室のある日だったが、彼女は欠席。来ると行っていたので心配したが、放課後「待っていますよ」と電話をくれた。

別の友人(chosu-manmaの心のあだ名は「死神」)と会いに行くと、寒天のように固まあった四角い茶碗蒸しが、テーブルに置いてあった。美味しい味噌汁と漬物、極上の苦い緑茶で、彼女は私達をもてなすのだった。

抗がん剤治療はどんなに辛いことだっただろうか、と思いをはせるが、彼女は辛いことは何も話さない。

お部屋も、綺麗に整頓されていておしゃれ。あじさいのドライフラワーが天井から吊るされ、母上の形見の紺色の菊花模様の帯が飾られていた。なんて、素敵!

死神は、夫婦喧嘩したら泊まらせてほしい、と冗談を言っていた。彼女は、定年退職後どこへもでかけないご主人のおさんどんが嫌で、ずっと彼の悪口を言い続けているのだった。

そして、一人暮らしに憧れていると。ただ、ゴキブリが出たら殺せないのでだめだ、と言った。