ちょス飯の読書日記

『ヨシボーの犯罪』 つげ義春作品集2 小学館刊 1992年発行  ★★★★★

「第47回アングレーム国際漫画祭の授賞式が1日、フランス南西部アングレームで開かれ、「ねじ式」や「無能の人」などの作品で知られるつげ義春さん(82)が特別栄誉賞を受賞」というニュースが今年2月2日にあった。

 

フランスでは、日本文化が憧れを持って紹介され好まれているが、漫画賞を水木しげる氏や谷口ジロー氏も授与されている。

本書は、短編集である。

 1958年の作である『ある一夜』から1984年の作『ある無名作家』

水木しげる氏は、つげ氏のことがお気に入りで彼がアシスタントをやめた後も、彼の作品を高く評価していた。

 ひっそりと日陰に暮らす人々。どうしようもなく貧しくて嘘つきで、働かない人々やまずしげな風景ばかりを彼は描く。精神をやんでいるヒトの幻覚だと思われる、シーンは突然トリップしてコマからコマの脈絡がない。そこが、面白いと思う。

 絵は、適当に描かれているコマと真剣に描かれているコマの落差がすごい。つげ氏の描く女性の裸とセックスシーンは、非常にエロチックである。生身の女性があまりにも、リアルに描かれているからだ。画才があるのは、間違いない。

 ストーリーもよく味わってみると、「どうにもならない、仕方がない」「何もしてやれなかった」という結末が多いが、これは実際の体験談だからだろうか。確かに自分の人生も、他人の人生も、どうにもならないことが真実だ。しかし、脱力するでもなく悲嘆に暮れることもなく、淡々と生きて行くしか無い。

『近所の景色』 1981年作 では、他の作品にも登場する李さんの飼っていた雷魚が、大水で流されたかと思っていたら、生きていて、「僕」は多摩川に放ってやった。そこはかとなく、作者の温かい優しい心を感じた。

 表題作『ヨシボーの犯罪』1979年作 これは、まさに精神の不安定なとき、性犯罪をしかねないほど性欲が高まる時期の青年の心理を描いているが、作者自身の心の病気の具合が感じられる。とても興味深い作品だ。

 他の短編も、彼にしか描けないものばかり。貧しくて汚らしくて卑怯な人々の生活の中の悲喜こもごも。小説ではなくこの絵が有りてこそ。まさしく漫画は、芸術であるといえる。