ちょス飯の読書日記
『石牟礼道子 全詩集』 石牟礼道子 石風社刊 2020年 ★★★★★
1940年代から2018年発表のものまで、網羅。
若い頃の、病的な表現、不可思議なたとえの多い詩から、散文、家族とくに母や祖母、弟を詠んだもの。水俣病事件で座り込みをしていたときのものなど、彼女の生きてきた折々の詩。ふるさとの妖怪たちや、小さい生き物たちも主役だ。
めめんちょろ、かえる、ビナ、ガゴ、ぽんぽんしゃらどの、狐。皆、彼女の小説の中でも描かれているが、どうも石牟礼は人間以外のものとも、交信していたらしい。
とくに、母がヨモギ団子が大好きで、作るのも名人で何より、人様に振る舞うのが大好きだったという詩、団子の敷き紙代わりにする葉のことを詠んだ「サルトリイバラ」が可愛らしい。
また、汽車に轢かれて翌朝、頭が半分無くなった状態で発見された弟を詠んだ詩も、悲しみと諦め、弟に対する愛を深く感じる
とくに、印象に残った「彼岸花」を掲げる。
ああ
このような雪夜じゃれば
ひょっとして
ここらあたりの原っぱの
赤い彼岸花の
花あかりのもとで
身づくろいしておった
あの
しろい狐御膳の子に
また生まれ替わるのかもしれん
いまはまだ
けやきの大樹の根本にいて
天の梢(うれ)から降ってくる雪にうたれながら
みえない繊(ほそ)い糸を
くわえ くわえ
うなじを反らしているばかり
手も 無か
足も 無か
目も 無か
めめんちょろの
野蚕さんになっておって
這うて漂浪(され)くのが
役目でございます
注・めめんちょろとは、ミミズのこと