蘇る人形

chosu-manmaは、幼い頃欲しかった人形を作り始めた。あれは、びんちゃんのひとり息子が、高校3年生の冬頃だった。そのきっかけとなった話を書こう。

びんちゃんは、大木の蔭のベンチで泣いていた。

彼女の夫が、息子の大学進学に反対したからだ。びんちゃんが言うには、成績優秀で芸術的才能があるから、推薦ももらっている。大学へ行かせたいのに、と。

大人なのに、はらはらと泣くので、chosu-manmaは、胸が詰まった。当時53歳くらいだったか、彼女はchosu-manmaより2歳歳上なのだった。

彼女の夫は、奨学金で大学へ行くと、結局借金を背負うことになる。大学を出ても、ろくな仕事もできないやつが多すぎる。家の経済状況を考えてみろ、大学へは絶対に行かせない。と言ったそうだ。

ご主人と別れたらどうですか。お兄さんに学資援助を頼んでみては?などとchosu-manmaは、言ってみたのだが・・・。

彼女は、自分の両親が離婚していてつらい思いをしてきたので、絶対に離婚したくないのだそうだ。葛藤。

びんちゃんを、どうか宥めてあげたい。

そのとき、chosu-manmaは、ひらめいた。びんちゃんは、和裁の専門学校中退だが、非常に手芸が上手だ。こういうとき、哀しくて悔しい、自分の思い通りにならぬときは、針をちくちくと動かしたらどうだろうか。きっと、気が晴れることだろう。

chosuタウンには、貸しロッカーの並ぶ店がある。手つくり品を展示して売ってくれるお店だ。そこに頼んで、あなたの手芸作品とchosu-manmaの作るお人形を並べて、売ってみようよ!

びんちゃんは、何故そんな提案をしたか気づかなかっただろうが、・・・。、chosu-manmaは、彼女をどうしても励ましたかった。

すると、びんちゃんの小さな小銭入れが、一つ売れた!

そして、chosu-manmaの手作り感満載の、文化人形もどきや、アメリカンドールなどが、飛ぶように売れ始めたのだった。適当にしか作れないのに、下手なところを気に入ってくれる酔狂な客がいたらしい。

あれから、8年くらい経った。

彼女の息子は、自分で仕事を見つけて、今では親元を離れ一人暮らしを始めている。chosuより、賢く生きる力に溢れている。当然かっこいいので女性にも不自由していないそうだ。息子がいなくなった寂しい時期を経て1年後、今ではご主人とうまくやっているようだ。あのとき、泣いていたのに、・・・・顔を合わせるとご主人の悪口ばかりを言い募っていたのに。今ではとても幸せそう。

 

一昨日Lさんに、借りた本をお返しに行き、もうすぐお別れだからと自分の作った人形を見せると、表情が変わった。このところ、Lさんは物忘れが激しく、約束の日をよく忘れて失敗しているようだが、「かわいい」「愛おしい」と言う感情は、とても豊かなのだった。意外だった。

全学連の闘士でもあったらしい、69歳のインテリ女史が、「私も作ってみたい!教えてほしい」と熱烈に言うのだった。

引っ越しが迫っているのに、手芸の材料の布も、小物もめちゃめちゃな状態だ。整理整頓が全くできないchosu-manma。家族にいつも叱られている・・・。誰かに教えるということは、まず材料をキチンと揃えなければならないなあ。不要なものは、じゃんじゃん処分しなければならないなあ。

人形の作り方読本は、もう箱に入れてしまった。まあいいや。Lさんは、ある講座の手伝いで7月までは忙しいというし。

転居後に、気分一新、準備万端で人形教室を始めようぞ!