ちょス飯の映画評

海よりもまだ深く』  ★★☆☆☆  監督 是枝裕和 主演 阿部寛 樹木希林

監督が28歳まで暮らした清瀬市の旭が丘団地が、舞台。彼の私小説のような映画。これは、映画にするまでのことはない作品。テレビドラマか、短編小説の尺で良い。

樹木希林のあまりに日常の姿が面白くて悲しいので、2星。

阿部寛は、セリフが聴き取りにくい。元妻役の真木よう子は美しすぎる。教職課程も取っていたという彼女が、小説家志望の夫を初めは支えてきたが、生活力がない彼を見限る。だが、これほど美しい彼女ならば、結婚相手はよりどりみどりであったことだろう。貧乏人階級出身者の彼を、美女ならば選ばない。そこにリアルさがない。

しかし、一度だけ島尾文学賞を取っただけで、鳴かず飛ばずの彼は父親譲りで、夢を語るばかりで、努力もしない。一人息子への仕送りもアパートの家賃も滞ってしまう。それを、探偵業で人の秘密を突き止めると、ゆすりをして稼いだり、競輪ですってしまったり・・・。

どうしようもない八方塞がり。これは、今の庶民の嘆きそのもの。

映画館まで足を運んでまで、一般人はこれを見ようとは思わないだろう。

安定した仕事があって、映画料金を支払えて帰りに食事や買い物をして帰れる資金力のある人しか、これを見に来ない。

主人公と同じ側にいる私には、あまり好ましいと思えなかった。

ただ2点評価したい場面がある。

台風の中、お菓子を持って公園へ父と息子が行く、というのは可愛らしくて、面白いエピソード。そして、主人公が10歳になる息子が可愛くてならないように、『何者にもなれない』息子を母親が心から愛していること。彼の撒いたみかんの種が、ベランダで

大きく育ちアゲハが飛び立つという。(わが家と同じだ)

この木をお前だと思ってかわいがっているという件。

主人公の父親も、口ばかりで稼ぎが少なかった。母親が彼を「海よりもまだ深く」愛していたかと言うと、そうでもなかった。しかし、彼女は死後も尚、夫を大切に思っている。貧しい階級の女性であっても、その志の高さを思う。

平凡な人の中にも、そういう人はいるものだ。